手こずった木曾のあまご
2005年5月初旬、鮎太郎は木曾にいた。その日の夕方には木曾を後にする予定だった。時間は3時間ほどしかない。山○という旅館の主人のすすめで、宿前の川の上流に入るつもりで歩いて行った。入渓点から川に降りると、3人の若者がルアーフィッシングを楽しんでいた。川の向こう側に新興の別荘地があり、そこに来た人達と見受けられた。聞くと、さらに上に釣り上がっていくとのこと、仕方なく、宿周辺で竿を出すことにした。20cm前後のイワナは釣れるものの、アマゴは掛かって来ない。「いないのかなぁ…」と思っていたら、目印が微かに揺れる程度のアタリが出た。いるのはわかったが、相当にスレているアタリだった。1mほどの水深のポイントで、一本の流れの筋とその横に巻いている流れがあり、渓流マンなら誰しも、竿抜けポイントとして、目を留める場所だった。身を隠すのにも最適な岩場もあった。鮎太郎は、他へ動くか迷ったが、この魚を釣ることにした。水中糸はフロロカーボンの0.1号、針は秋田狐の2.5号。エサを数回流すが、辛いアタリばかりで針掛かりまでは持っていけなかった。
あとは、何かやっていないことをやるしかない、そう思い、フジノラインのターボVというハイテクライン0.03号の仕掛けをセットした。これは鮎の水中糸に使う糸なのだが、中途半端に余ったものを渓流用に流用したものだった。新刃に替えた直後の切れ味のシャープさを彷彿させるような感じだった。小さなガン玉が底石を擦る感触がはっきり手元に伝わって来た。巻いている流れに吸い込まれるように、仕掛けが馴染んでいった。目印が何周か回った後、やっとアタリが出た。竿を軽く持ち上げると、魚の震動が伝わって来た。タモに入ったのは小さなアマゴだった。2005年の渓流釣りで、ハイテクラインやメタルラインの仕掛けまで出したのは、後にも先にも、この小さなアマゴだけだった。私にとっては、大きさではない、価値ある一尾…。
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