中毒になった瞬間①~テンカラ
僕が釣りを始めたばかりの頃だった。その頃は、とにかく、どんな魚でも釣りたいという節操のない釣りをしていた。僕の職場近くの川では、時々、ヤマメやイワナ、ニジマスが釣れるので、その日も、イクラや川虫を餌に竿を出していた。だが、その日は全く釣れず、どうしたものかと思案に耽っていた。リュックの中に、買ってから一尾も釣っていないテンカラロッドとライン、見よう見まねでまいたオリジナル毛鉤があることに気付き、それでダメなら納竿することにした。ウォーミングアップに少しキャスティングの練習をして、半信半疑で、堰堤の上から、毛鉤を振りこんでみた。流れの筋に、毛鉤が着水するかどうかというところで、突然、一尾のヤマメが水中から毛鉤を目がけて跳びだして来た。僕は、無意識に竿を持っていた右手を上げた。ドンピシャのタイミングでアワセが決まって、ラインがビシッ!と唸りをあげた。右手から全身に伝わって来る感触は、今まで味わったことのない快感だった。次に、きれいなヤマメが僕を目がけて飛んで来た。毛鉤を振り込んでから、ヤマメを手にするまではスローモーションで覚えている。心臓の鼓動が早まり、膝がガクガクして、しばらく放心状態だった。それから、その日は毛鉤を振るとヤマメばかりが掛かった。今から10年以上前の、梅雨に入る前の6月のある日のことだった。この釣りは、いや、釣りはおもしろいと思った瞬間だった。
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